





知識ゼロからのジャズ
「ジャズって、なんだか敷居が高い気がする」「興味はあるけれど、どこから入ればいいのかわからない」──そんなふうに感じている方にこそ読んでほしい。
ジャズは、一度その奥深さと自由さを味わえば、人生のなかで何度でも聴きたくなる音楽になります。歴史や名盤、演奏スタイル、ジャズマンたちの生き様、そしてストーリー。知れば知るほどおもしろく、耳だけでなく心までも豊かにしてくれるジャンルです。
この記事では、まったくの初心者からでも「ジャズって面白い!」と思えるようになる、良質な入門書・解説書・マンガ・名盤ガイド・音楽マンガまで、ジャンルも切り口も異なる5冊をご紹介します。
「聴く前に読む」ことで、ジャズの世界がもっと身近になるはず。新しい音楽との出会いが、ここから始まります。
1. 音楽と人間の教養を結ぶ、深くてやさしい一冊
『教養としてのジャズ』村井康司/世界文化社(ISBN:4418242252)
「クラシックやロックの歴史は知っているけど、ジャズはなんだか難しそう」──そんな方にぜひ手に取ってほしいのがこの一冊です。
著者はジャズ評論家として30年以上にわたり活動してきた村井康司氏。音楽としてのジャズの魅力だけでなく、その誕生の背景、時代を映す鏡としての役割、そして哲学やアートとの接点など、ジャズを通して「教養」全体を語ります。
特に印象的なのは、モダンジャズの巨匠マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンの演奏を、まるで文学や映画のように語る筆致。演奏の音だけでなく、「なぜその音が生まれたのか」という背景へのまなざしが、読者の思考を深めてくれます。
「ジャズを“知る”ことは、人間や社会を理解することでもある」。
まさに教養としての価値を再確認できる一冊です。
2. 本当にゼロから分かる、ジャズへのやさしい入り口
『ゼロから分かる!ジャズ入門』後藤雅洋/世界文化社(ISBN:4418222332)
音楽に詳しくない人でも安心して読める、まさに“ゼロから”を実現してくれる入門書です。
著者の後藤雅洋氏は、長年ジャズ喫茶「いーぐる」を経営しながら、数多くのジャズ本を執筆してきた「語りの名手」。この本でも、難解な専門用語やマニアックな知識に頼らず、あくまで「聴く楽しさ」を軸に解説しています。
例えば、スウィングとはなにか、アドリブとはどう聴けばいいのか、ビバップとはどんなスタイルなのか……といった基本的な疑問に、親しみやすい言葉で答えてくれます。
巻末には名盤ガイドやミュージシャン別の聴きどころも充実しており、読後すぐにジャズを聴きたくなる構成も魅力。
“ジャズって楽しいかも”という第一歩を踏み出すには、ぴったりのガイドブックです。
3. ストーリーとビジュアルで学べる、読むジャズ教室
『マンガで学ぶジャズ教養』後藤雅洋・飛鳥幸子/扶桑社(ISBN:4594095607)
もっと気軽に、もっと楽しくジャズの世界を覗いてみたい──そんな方におすすめしたいのがこの1冊。
マンガのストーリーを追いながら、ジャズの基本や歴史、聴き方まで自然と身につく、まさに「読む音楽講座」です。
物語の主人公は、ジャズに興味を持ち始めた若者たち。彼らがジャズ喫茶に通ったり、レコードを探したりしながら、少しずつ音楽の世界に入っていく様子が描かれます。
その過程で登場するのが、ジャズの名盤や名演奏家たち。文章だけでは難しく感じられるようなテーマも、マンガの力でぐっと身近に感じられるはずです。
また、監修を務める後藤雅洋氏によるコラムも収録されており、マンガと解説のバランスが絶妙。
「読書」と「体験」が両立する、画期的な入門書です。
4. 名盤100枚から探る、ジャズの奥深い世界
『20世紀ジャズ名盤100』大谷能生/イースト・プレス(ISBN:4781623085)
「具体的にどんなアルバムを聴けばいいのか?」という疑問に応えるのがこの本。
音楽批評家であり、音楽家としても活動する大谷能生氏が、自らの視点で選び抜いた20世紀のジャズ名盤100枚を紹介します。
「モダンジャズ黄金期の名盤」から「フリージャズ」「ジャズとヒップホップの関係」まで、幅広い時代・スタイルを網羅。アーティスト紹介にとどまらず、各アルバムの音楽的特徴や社会背景、文化的文脈まで丁寧に解説されています。
たとえば、マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』やチャーリー・パーカーの『Now’s the Time』のような“鉄板”名盤から、現代ジャズへの橋渡しとなる作品まで。
「この一曲を聴いてみよう」という実践的な提案もあり、音楽配信サービスと併用しながら読むとより楽しめます。
選曲のセンスと批評の鋭さが光る、ジャズリスナーにとっての“羅針盤”とも言える一冊です。
5. ジャズの魂を音と絵で描ききった傑作コミック
『BLUE GIANT』石塚真一/小学館(ISBN:4091856780)
最後にご紹介するのは、書籍というよりも“音が聞こえてくるマンガ”。
仙台の高校生・宮本大がサックスと出会い、「世界一のジャズプレイヤー」を目指して旅立つ物語『BLUE GIANT』は、ジャズの情熱と躍動感を余すことなく描いた異色の傑作です。
作中には音楽の具体的な描写はもちろん、ライブの緊張感や観客との一体感、そして音楽に人生を賭ける若者たちのドラマが詰まっています。
特に、演奏シーンではセリフも効果音も最小限に抑えられ、ページをめくるたびに“音”が響いてくるような臨場感があります。
ジャズを「聴く前に読む」のではなく、「読んでから聴きたくなる」──そんな衝動を呼び起こしてくれる作品です。
ジャズの入り口として、あるいはモチベーションの原動力として、ぜひ手に取ってみてください。
おわりに──“読むジャズ”から“聴くジャズ”へ
ジャズは、単なる音楽ジャンルにとどまらず、文化や思想、生き方にまで深く関わる芸術です。だからこそ「ただ聴くだけ」ではなく、「読んで知る」ことがその魅力をさらに引き出してくれます。
今回ご紹介した5冊は、どれも違う角度からジャズという宇宙を照らしてくれる灯台のような存在。知識を得てから音楽に向き合えば、耳に飛び込んでくる一音一音が、まるで違った意味を持ち始めるはずです。
これを機に、「なんとなく敷居が高そう」と感じていたジャズの扉を、そっと開いてみませんか?
本のページの先に、豊かな音楽の世界が広がっています。
2025年5月31日 更新