人生を彩る本棚

お酒と政治・ビジネス

お酒は、飲んで楽しむだけのものではありません。文化を育み、人間関係を映し出し、時には国際関係さえ動かす力を持っています。そんな「お酒」というテーマを切り口に、政治やビジネス、外交、地域文化、そして人間模様を描き出す5冊の選書をご紹介します。居酒屋での語らいのように、知的でユーモラス、そしてちょっと酔える――。そんな読書体験がここにあります。

『政治家の酒癖 世界を動かしてきた酒飲みたち』栗下直也/平凡社

政治家の酒癖 世界を動かしてきた酒飲みたち

栗下直也

平凡社

ISBN: 9784582860252

政治家が酒を交えた社交の場でどのように振る舞い、酒を政治に利用してきたか。酒はただの嗜好品やストレス発散の手段にとどまらず、しばしば政治的な戦略や権力争いにも大きな影響を及ぼしています。政治家同士が酒の席で情報交換を行い、歴史的に重要な決定がなされてきたことも多いのです。酒癖の悪さによって政治家のキャリアがいかに左右されたか、あるいは酒を上手に使いこなすことで政治的にのし上がっていったか、様々な事例が紹介されています。宴席を上手に使って人心を掌握した田中角栄、飲みすぎて周囲の信頼を損ねたエリツィン、酒乱の英雄グラント将軍、飲まずに盛り上げる安倍晋三、古今東西の政治家たちと酒にまつわる奇想天外なエピソードをユーモラスにつづります。酒は人間関係の潤滑油なのか失敗の素なのか。酒と政治的判断の優劣の関係はあるのか。酒を飲まないトランプとプーチンが正しい判断を下していると言えるのか。酒が政治家の個性や公私の姿勢をどう反映させたのか、政治家の人間性や資質を新たな視点から理解することができます。

『日本酒外交 酒サムライ外交官、世界を行く』(門司健次郎/集英社)

日本酒外交 酒サムライ外交官、世界を行く

門司健次郎

集英社

ISBN: 9784087212501

外交官だった著者はヨーロッパ、中東、カナダなど赴任する先々で「日本酒外交」を展開する。パーティ、レセプション、晩餐会、外交の場で欠かせない食事の場において、酒の果たす役割は大きい。そこにワインでもシャンパンでもなく日本酒を持ち込むことで各国に食い込んでいく。そして2024年12月、日本酒はユネスコ無形文化遺産に登録されることに。果たして著者にとっては外交の潤滑油としての日本酒なのか、ただ日本酒を世界に広めたいだけなのか。ついには日本酒造青年協議会から「酒サムライ」と認められるまでに。「日本酒を世界酒に」をモットーにさらに日本酒を世界に広めていく!

『酒ビジネス』(高橋理人/クロスメディア・パブリッシング)

酒ビジネス

高橋理人

クロスメディア・パブリッシング

ISBN: 9784295410270

安倍元首相がオバマ元大統領にプレゼントする日本酒、ロバート・デ・ニーロが自家用ジェットで買い付けにくる日本酒、タイガー・ウッズをスランプから脱出させたと言われる日本酒、世界に広まりつつある日本酒の教養をまとめた、ビジネスマン必読の本となっています。古代から日本酒の歴史を紐解き、現代の日本酒造りを丁寧に紹介。一升瓶・ワンカップ・パウチ酒など創意工夫がなされてきた容器の世界。日本酒コンテストでは何が審査されているのか。世界への日本酒の広がり方からこれからの酒ビジネスの紹介まで、ビジネスにも雑談にも役立つ奥の深い日本酒の知識が満載です。なぜ日本酒のアルコール度数は「15度」が多いのかわかりますか?

『居酒屋と県民性 47都道府県ごとの風土・歴史・文化』(太田和彦/朝日新聞出版)

居酒屋と県民性 47都道府県ごとの風土・歴史・文化

太田和彦

朝日新聞出版

ISBN: 9784022620675

日本全国の居酒屋を訪ね、各地で酒を飲んできた著者が「居酒屋と客と県民性」に焦点を当てた一冊。著者は言う。「一杯やりながら眺めている県民性はまことに多様で、国内各地の旅の面白さはそこにある。土地に古くから残るものを探って記録するのは民俗学だ。いつしか『居酒屋の民俗学』と思うようになった。」また「小説でも映画でも居酒屋は日常的に登場して、本音や人間性が表れる舞台に使われる。これは文化だ。日本の居酒屋には文化がある。」とも言っている。全国47都道府県別に筋立てしており、その土地の風土や歴史、文化、県民性を解説した後、その土地に根付いた実在する居酒屋の酒と肴、はては女将のキャラクターや客の飲み方を紹介する。居酒屋と県民性についての解説は思わずうなづきたくなるものばかり。都道府県別に記されている小見出しも一興「不滅の酒飲み県」(高知)「おいしい魚があれども、商売ができない」(茨城)。

『酒を主食とする人々 エチオピアの科学的秘境を旅する』(高野秀行/本の雑誌社)

酒を主食とする人々 エチオピアの科学的秘境を旅する

高野秀行

本の雑誌社

ISBN: 9784860114954

アフリカのエチオピアの南部に酒を主食とする民族がいるという。飲料として飲んでいるのではない。「主食」としているのだ。水分だけではなく栄養も酒から得ている。それはつまり成人だけではなく、子供も病人も妊婦でさえも朝から晩まで酒を飲んでいるということなのか。そんな民族が果たして本当に存在するのか。どういう生活を送っているのか。常に酔っぱらっているのか。ほとんど情報の無いこの民族を取材するため著者は深刻な政情不安状態にあるエチオピアへと旅立つ。爆笑を禁じ得ない相次ぐトラブルに見舞われながら、やっと現地にたどり着いた著者は、5歳の女の子が「へべれけのおっさん」になるような生活を目の当たりにする。酒を主食として本当に健康でいられるのか。果たして現代医学における健康とは何か。酒を飲むという概念を根底から覆す衝撃のルポタージュ。なお現地民が飲む酒は日本人が飲んでいる酒類とはまったく別ものなので決して真似しないでください。

まとめ

今回ご紹介した5冊は、すべて「酒」というテーマを軸にしながら、それぞれ異なる角度から世界を切り取っています。お酒には、私たちが思っている以上に深く、広い物語が隠れています。お酒が好きな方はもちろん、普段あまり飲まないという方も、本を通してなら新たな“酔い”との出会いがあるかもしれません。

2025年5月30日 更新

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