わたしの本棚

家計簿を制すものは人生を制すー江尻尚平

10年以上家計簿アプリを運営してきた江尻尚平氏による、影響を受けた書籍のご紹介。意外にも家計簿以外に大きなヒントが…

家計簿は人生の羅針盤

お金の管理は、人生の舵取りそのものです。どこに向かって進むのかを決めるには、現在地を正しく知ることが何より大切。その「現在地」を見える化するツールこそ「家計簿」です。私は、2秒で記録できる家計簿アプリ「おカネレコ」を提供するスマートアイデア株式会社の代表を務めておりますが、これまで多くのユーザーと接する中で、家計簿がいかに人生に大きな影響を与えるかを実感してきました。

3つの力「つける」「ためる」「ふやす」

家計管理において身につけて欲しい力は3つあります。それらの力は家計簿を通して身につけることができます。

「つける力」

1つ目は「つける力」。
家計簿をつける。とにかくスタートポイントは、家計を見える化することです。収支がはっきりしない家計はなにが問題なのかさえもわかりません。それでは将来の見通しも立ちません。

経理を行わない会社はありません。納税のためもありますが、そもそも儲かっているのか、儲かっていないのか、現状でいいのか、悪いのかなどを判断するために「見える化」が必須だからです。しかし、家計のこととなると行っていない方が非常に多いのです。

家計を「見える化」するには、家計簿にしてもExcelなどで管理にしても、どうしても手間や時間がかかってしまいます。手間を省いて「仕組み化」することで、楽な管理を目指すことが重要です。

「ためる力」

2つ目は「ためる力」。

「つける」ことで家計が「見える化」されると、収入と支出がはっきりして、どのぐらい貯蓄できるのかわかってきます。どこに無駄があるのかも明確になり、家計をコントロールできるようになります。コントロールできれば、ためる力が増していきます。

「ふやす力」

そして3つ目が「ふやす力」。
「ためる」ができるようになると、増えてきた資産を元に増やすことができるようになります。ただし、増やすには、たくさんの知識や経験が必要です。

3つの力は、順番に身につけていくことがとても重要。いま世間では、投資・運用をしないとダメみたいな雰囲気があります。しかし、「つける」「ためる」ができていない方が、いきなり「ふやす」に挑むと、どうしても無理が生まれてきてしまいます。

投資・運用にチャレンジしてみたけど、大損してこりごり!もうやりません!という方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。それは、この3つの力をしっかり身につけてこなかったことが原因です。多くの方が、自分が望む人生を生きられるようになること。この実現方法をお伝えし、サポートをしていくことが私の望みです。

家計簿のメリット

家計の見直しには、一にも二にも、まずは現状を把握することが大切です。
最初はおおざっぱでもかまいません。入ってくるお金、出ていくお金を記録し、流れをつかみましょう。どこを工夫したらいいのかが必ず見えてきます。

そのために役立つのが「家計簿」です。
家計簿での現状把握は、家を建てる基礎・土台のようなもの。土台をしっかりすることで、その上に建てる家計の工夫が素晴らしいものになります。この点が家計簿の最大のメリットであると言えます。

ここからは私が家計簿について学ぶ上で影響を受けた書籍を3冊ご紹介します。

1.明治時代に書かれた元祖家計簿『羽仁もと子著作集 第9巻 家事家計編』

羽仁もと子著作集 第9巻 家事家計編

羽仁もと子

婦人之友社

ISBN: 978-4829200094

現代の日本で使われている家計簿のもとになっているのは、雑誌「婦人之友」を創刊した日本初の女性ジャーナリスト・羽仁もと子さんが発案したもの。明治37年(1904年)のことです。どういったものだったのだろうかと、羽仁さんの原典をさかのぼってみることにしました。そうして見つけた本が「羽仁もと子著作集 第9巻 家事家計篇」です。羽仁さん晩年の文章で、昭和2年に書かれた文章には以下のような記述があります。

“以前の各家庭の小遣帳といえば、食べ物でもきものでも、何でも一つに並べて書いて、月末に加算して総合計をだすというやり方でしたら、ほんとうに不完全なものでした。”

従来の管理方法では、家計をうまく管理することができないと、課題を感じていたそうです。

“今から二十五年前、それは家庭之友を出して、間もないころのことでした。当時、新聞社新聞社に勤める主人の小遣は月に十二円でした。何もむだづかいする人ではないのに、どうしてもそれが一と月もたない。”

と、明治時代でもいまと変わらないことで悩んでいたようです。現代も、同じような悩みの方がたくさんいるのではないでしょうか?

“ふっとこの家計簿のことを思いついたのです。そうしてそのとき二人でやっていた家庭之友に書きました。それがみなさんが広く使っていてくださる私の『家計簿』でございます。”

カテゴリーごとの割り当て額を記入しておき、毎日出費を記録して家計を管理できる『家計簿』。これが多くの人に受け入れられ、広まっていったそうです。

“よい予算をたてて、収支をこの帳面に毎日欠かさずしるしていれば、完全な指導者と一緒に、家計をとっているのと同じで、少しも心配がないばかりでなく、はっきりと筋道たった家計をとっていることが、日々の大きな楽しみになるものです。”

2.本多静六『私の財産告白』(実業之日本社)

私の財産告白

本多静六

実業之日本社

ISBN: 978-4-408-55122-7

貧しい農家に生まれた著者が、努力と工夫によって巨万の富を築いた体験をもとに、人生とお金の知恵を語った一冊です。彼は「四分の一天引き貯金法」として、収入の25%を自動的に貯金し、さらに臨時収入はすべて貯蓄することを徹底。この実践が財産形成の土台となりました。また、支出を管理し、必要以上の贅沢を避ける倹約精神も重要視しています。

投資においては「比較的安全で確実なもの」を選ぶ方針で、景気の波に応じた投資行動をとることを勧めます。彼は「好景気時には貯蓄、不景気時には投資」といったサイクルを繰り返すことで、着実に資産を増やしました。

本多は財産を築くだけでなく、それをどう処分するかも重視しており、定年後には全財産を寄付し、質素な生活に戻ることを選びました。これは「財産は社会のもの」とする彼の信念によるものです。

本書は単なる金儲けの指南書ではなく、「努力は幸福に通じる」とする著者の人生哲学が根底にあります。凡人でも努力を続ければ、天才を超えることができるという信念が、読む者に勇気と実践の力を与えてくれます。明治時代に収支を管理することと投資の重要性を説いたことから、本多は先見の明がある人物であったと言えます。

3.江尻尚平『お金が貯まる! 世帯年収500万円から始める共働き夫婦の超効率家計簿』

お金が貯まる!共働き夫婦の超効率家計簿

福島えみ子,江尻尚平

徳間書店

ISBN: 978-4198652081

最後に紹介する1冊は私の著書です。
​『お金が貯まる! 世帯年収500万円から始める共働き夫婦の超効率家計簿』(福島えみ子・江尻尚平著)は、共働き世帯が抱える家計管理の課題に対し、シンプルで実践的な解決策を提案する一冊です。​500万ダウンロードを超える家計簿アプリ「おカネレコ」の開発者である私が、豊富なデータと経験をもとに、共働き家庭の家計管理術を紹介しています。​従来の家計簿は主婦向けのものが多かったですが、本書で紹介する家計簿は共働き世帯を前提としています。

共働き世帯は、収入源が2つあるため本来は貯蓄しやすいはずですが、「貯金ができない」「毎月の赤字をボーナスで補てんしている」といった悩みを抱える家庭が少なくありません。​その原因として、夫婦それぞれの給与振込日が異なることや、節約に対する意識の違い、収入や支出の情報を共有しないことなどが挙げられます。​

本書では、これらの課題を解決するために、共働き夫婦の家計管理を「オールオープンタイプ」「収入シークレット&共通財布タイプ」「収入シークレット&支出分担タイプ」「ワンオペタイプ」といった4つのタイプに分類し、それぞれに適した家計管理術を提案しています。​また、家計簿をつける時間がない忙しい夫婦のために、簡単に使える家計簿や時短家計管理の方法も紹介しています。

タイプ説明
オールオープンタイプ夫婦の収入も支出もすべて合算して管理していくタイプ。
それぞれの収入額、支出額だけでなく、それらの中身を全て共有していく。
収入シークレット&共通財布タイプお互いの収入は明らかにせずに共通の財布を作るタイプ。
さらに共通財布に同じ「金額」ずつを出し合う「共通財布イーブン型」、共通財布にあらかじめ決めた「割合」ずつを出し合う「共通財布ポーション型」がある。
収入シークレット&支出分担タイプお互いの収入は明らかにせずに支出だけ分担するタイプ。
さらに、あらかじめ費目ごとに担当を決めていく「費目を決めて分担型」、実際にかかった支出を、割合を決めて負担していく「家計の支出額を割合で分担型」に分かれる。
ワンオペタイプ片方の収入だけで基本的には生活するタイプ。
もう片方の収入はまるまる貯蓄したり、あるいは自由に片方がお小遣いとして使ったりする。

4つのタイプ表

さらに、貯蓄の仕方、年金の考え方、教育資金の作り方など、ライフプランに合わせた家計づくりの方法も解説しています。​共働きのメリットを活かしながら、お互いに相手の貯金をあてにしない資産づくりの重要性も説明しています。

本書は、共働き家庭が抱える家計管理の悩みを解消し、自然とお金が貯まる仕組みを作るための実践的なガイドブックです。​忙しい日々の中でも、無理なく家計を整え、将来への不安を軽減するためのヒントが詰まっています。

家計簿は人生を整える入口

家計簿とは、単に数字を記録する道具ではありません。
自分の価値観を見つめ直し、人生の優先順位を定め、未来を主体的に選び取るための道具でもあります。

紹介した3冊の書籍には、それぞれの時代背景の中で、家計と真剣に向き合ってきた人々の知恵と工夫が詰まっています。そして、その本質は今もまったく変わりません。
――収支を把握し、貯め、増やし、そして自分らしく使うこと。
これは、誰にでもできることであり、人生の舵を握る第一歩です。

家計簿アプリ「おカネレコ」は、そんな第一歩をできるだけシンプルに、負担なく踏み出せるよう設計しています。
記録の手間を最小限にしつつ、気づきと安心感を得られる。
家計管理が、義務や苦痛ではなく、「自分の人生に向き合う時間」としてポジティブなものになるよう、私たちは日々改善を続けています。

最後に、家計簿を始めようか悩んでいる方へ。
完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
「今日、何にいくら使ったか」それを1つだけ記録することから、すべては始まります。

私たちは、これからも「お金の管理=人生の創造」を支えるパートナーとして、皆さんと一緒に歩んでいけたらと願っています。

著者 プロフィール

江尻尚平

ファイナンシャルプランナー。
上智大学理工学部卒業、大手外資系携帯電話メーカーにてサービス企画などに従事。慶應義塾大学大学院経営管理研究科にて経営学修士(MBA)を取得。
2012年にスマートアイデア株式会社を創業、代表取締役に就任。
現在、500万ダウンロードを達成した家計簿アプリ「おカネレコ」および家族向け家計簿「おカネレコプラス」、FPオンライン相談サービス「マネシル」などFintech分野に注力した事業を展開している。

2025年5月29日 更新

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