





走りたくなるマラソン小説
マラソンや駅伝は、ただのスポーツではありません。それは、自己との対話であり、仲間との絆を深める旅でもあります。今回ご紹介する5冊の小説は、走ることを通じて人生の意味を問いかけ、読者の心を深く揺さぶります。それぞれの物語が描く「走る」ことの多様な側面を、ぜひ感じ取ってください。
『風が強く吹いている』(三浦しをん/新潮社)
箱根駅伝を目指す大学生たちの青春を描いた長編小説。物語は、主人公の清瀬灰二(ハイジ)が、天才ランナーの蔵原走(カケル)をスカウトするところから始まります。彼らが住むボロアパート「竹青荘」には、陸上未経験者や運動音痴の学生たちが集まっており、彼らと共に箱根駅伝出場を目指すという無謀とも思える挑戦が描かれます。
この小説の魅力は、個性豊かなキャラクターたちの成長と、彼らが一丸となって目標に向かう姿にあります。特に、箱根駅伝の描写には臨場感があり、読者はまるで自分が応援しているかのような感覚を味わえます。また、走ることを通じて自己と向き合い、仲間との絆を深めていく過程が丁寧に描かれており、スポーツ小説としてだけでなく、青春小説としても高い評価を受けています。
走ることの意味や、仲間と共に目標を追いかけることの大切さを感じたい方に、ぜひおすすめしたい一冊です。
『あと少し、もう少し』(瀬尾まいこ/新潮社)
中学生たちが駅伝大会に挑む姿を描いた青春小説。全校生徒数150人ほどの小さな中学校・市野中学校では、毎年駅伝で県大会出場を果たしてきましたが、今年は顧問の異動により、運動経験のない美術教師が新たな顧問に就任します。部長の桝井は、陸上部以外からもメンバーを集め、チームを結成します。
物語は、各区間の走者がそれぞれの視点で語る構成になっており、彼らの内面や成長が丁寧に描かれています。いじめられっ子だった設楽、不良の太田、吹奏楽部の渡辺など、個性豊かなメンバーたちが、走ることを通じて自分自身と向き合い、仲間との絆を深めていきます。
中学生ならではの悩みや葛藤、そして成長の過程がリアルに描かれており、読者は彼らの姿に共感し、応援したくなることでしょう。走ることの楽しさや、仲間と共に目標を追いかけることの大切さを感じたい方におすすめの一冊です。
『シティ・マラソンズ』(三浦しをん・あさのあつこ・近藤史恵/文藝春秋)
三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵という3人の人気作家による短編アンソロジー。ニューヨーク、東京、パリという3つの都市を舞台に、それぞれの作家がマラソンをテーマにした物語を描いています。
三浦しをんの作品では、都市の喧騒の中で走ることの意味や、日常からの解放感を、あさのあつこは、走ることで自分自身と向き合う主人公の姿を、近藤史恵は、マラソンを通じて人間関係の機微を伝えてくれます。3編とも主人公はなんらかの挫折を味わっていますが、走ることで前向きな気持ちになっていきます。
また、それぞれの都市の風景や文化が色濃く反映されており、読者はまるでその街を走っているかのような感覚を味わえます。走ることを通じて見えてくる人生の意味や、人とのつながりの大切さも感じることができ、短編ながらも深い感動を与えてくれます。
都市マラソンの魅力や、走ることの多様な側面を感じたい方におすすめの一冊です。東京オリンピック日本代表田中希美選手が「私の一冊」として愛読していることでも有名になりました。
『ランナー』(あさのあつこ/幻冬舎)
高校生の加納碧李が主人公の青春小説です。家庭の事情から陸上部を退部した碧李は、走ることから逃げてしまった自分に向き合い、再びスタートラインに立とうとします。
物語は、碧李の内面の葛藤や成長が丁寧に描かれており、読者は彼の心の動きに共感しながら読み進めることができます。走ることを通じて、自分自身と向き合い、過去を乗り越えていく姿は、多くの読者の心を打つことでしょう。
また、あさのあつこならではの繊細な描写や、登場人物たちのリアルな人間関係も魅力の一つです。走ることの意味や、自分自身と向き合うことの大切さを感じたい方におすすめの一冊です。
『はにわラソン いっちょマラソンで町おこしや!』(蓮見恭子/双葉社)
町おこしのためにフルマラソンの大会を一から立ち上げる―――市役所職員倉内拓也は新任市長から無茶ぶりをされる。わずかに前職でマラソン大会の運営に携わっていたとはいえ、立ち上げは簡単ではなかった。どうやってコースを設定すればいいのかわからない、設定したら警察と折衝しなければならない、通行止めになる住民や店舗を納得させなければならない、そもそも運営資金を募るためにスポンサーを集めなければならない、そして無茶ぶりした市長は丸投げしっぱなし。季節は?規模は?ランナー募集は?膨大な仕事量と数々の問題を抱えて、果たして大会開催にまでこぎつけられるのか。スポーツを通じた町おこしは決してきれいごとだけでは済まないけれど、それでも頑張った倉内たちこそ拍手を送られるべきと思える痛快お仕事小説。
まとめ
走ることは、単なる運動ではなく、自己との対話であり、人生の縮図でもあります。今回ご紹介した5冊の小説は、それぞれ異なる視点から「走る」ことの意味を描いており、読者に深い感動を与えてくれます。ぜひ、これらの物語を通じて、走ることの魅力や人生の豊かさを感じ取ってください。
2025年5月30日 更新